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結核について

世界の結核

概 況

 

結核は空気感染をする病気で、世界人口の1/5が結核に感染しています。 結核は,感染症として新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)に次ぐ第2位の死因であり,2020年では、約1000万人が結核を新たに発病、HIV感染者を含む150万人が死亡しています。結核推定患者数のうちの約10%(110万人)は子どもです。 

 

「2030年結核終息」は、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3.3に該当します。 2018年には、国連総会結核ハイレベル会合が開催され、各国首脳は2030年結核終息に向けて結核対策を新たなステージに押し上げるべく「政治宣言」を発表しました。 しかし、2019年からの新型コロナパンデミックがこれまでの努力に大きく水をさしました。2020年では10年以上ぶりに世界の結核による死亡者数が増加し、2020年に結核の治療を受けた人は570万人と前年より21%減少、未治療の結核患者は430万人と推定され、その半分が死亡する可能性があります。多くの国では、人的、財政的、その他の医療資源を結核対策からコロナ対策に再配分をせざるを得ず結核医療サービスへのアクセスが途絶しました。世界の結核対策への資金不足も改めて大きな課題となっています。

 

コロナパンデミックの結核への影響

 

結核患者発見の遅れにより、2025年までに600万人の結核患者、140万人の結核死が過剰に発生し、死亡率は5年前の状況へ戻るとのモデル研究もあります。また、予想される結核患者の増加には、国内総生産(GDP)の落ち込みや栄養問題も寄与するとの調査結果もあり、それらの影響はまだ考慮されておらず、モデル研究は過小評価されている懸念もあります。

 

  • ●コロナよる結核診断および治療の提供とアクセス中断により2019年から2020年の間に世界の結核死亡者数が約100,000人増加。
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  • ●2019年から2020年にかけて結核と診断され報告された人数は18%減少。地域でみると東南アジアと西太平洋地域で大きく減少(世界の結核症例通知減少の84%を占めた)
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  • ●2019年から2020年にかけて多剤耐性結核の治療を受けた人数15%減少
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  • ●2019年から2020年にかけて結核の予防的治療を開始した人数は360万人から280人に減少。

 

  • ●2019年から2020年にかけて結核対策(予防、診断、治療)への支出は、58億米ドルから53億米ドルに減少。

 

参照

・WHO Global TB Report2021

・Impact of the COVID-19 pandemic on TB detection and mortality in 2020

 

TB  KEY  FACT

 
  • ●2020年に結核による死亡者は150万人。そのうち214,000人がHIV感染者。
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  • 2020年、110万人の子どもが結核を発症した。小児・思春期の結核は医療従事者に見落とされがちで、診断や治療が困難な場合がある。

 

  • ●結核の高負担国30カ国は、新規結核患者の86%を占めている。8カ国が全体の3分の2を占め、インドを筆頭に、中国、インドネシア、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュ、南アフリカが続いている。

 

  • ●多剤耐性結核(MDR-TB)は、依然として公衆衛生上の危機であり、健康安全保障上の脅威でもある。2020年には、薬剤耐性結核患者の約3人に1人しか治療にアクセスできていない。

 

  • ●結核対策への資金は停滞傾向で、推定必要額と国連の目標にはるかに及ばない状態が続き、2020年には2016年以来初めて減少した(2019年から2020年の間に8.7%減少)。これは国連総会結核ハイレベル会合で誓約された目標額の半分以(41%)である。

 

 

参考 WHO Global TB Report 日本語サマリー

 

 

課 題

 

◆多剤耐性結核(MDR-TB)

 

多剤耐性結核とは結核治療の立役者であるイソニアジドとリファンピシンという2つの薬の両方に抵抗性のある菌で起こる、文字通り薬の効かない結核のことです。2019年では、最も有効な第一選択薬であるリファンピシンに対する耐性患者は、465000人、そのうち78%が多剤耐性結核です。薬剤耐性結核は診断されても治療ができず, 公衆衛生の危機と言われています。2021年で必要な患者の1/3にしか診断と治療がなされていない状況です。

 

抗菌薬の不適切な使用を背景として、薬剤耐性菌(AMR)が世界的に増加する一方、新たな抗菌薬の開発は減少傾向にあり、国際社会で大きな課題となっています。結核は、AMRの主要な死因の一つです。薬剤耐性結核は、2017年ベルリンG20保健大臣会合においてAMR問題の主要な脅威の一つであることが認識されて以来AMR問題の中核として扱われています。

 

薬剤耐性結核の分類: 

●多剤耐性結核(Multi-Drug Resistant Tuberculosis;MDR-TB)
 第1選択薬であるイソニアジドとリファンピシンの2剤に対して抵抗性を持っている結核

 

●超多剤耐性結核(Extensively Drug-Resistant Tuberculosis;XDR-TB)

 上記2剤に加え、フルオロキノロン系製剤に耐性を持ち、かつ注射剤であるアミカシン、カナマイシン、

 カプレオマイシン(現在は国内販売中止)の3剤のうち、少なくとも1剤に耐性を持つ結核

 

●極度多剤耐性結核(Extremely Drug-Resistant Tuberculosis;XXDR-TB)
 全ての薬剤に耐性を持つ結核

 

多剤耐性結核になる主な原因:
・不規則な薬の服用(完治するまでに飲んだり、やめたりと中途半端に薬の服用を行う)
・薬剤副作用(副作用が原因で薬を使用できなくなってしまう)
・不適切処方(診断のミス等によって、きちんと薬が処方されなかった)
・耐性菌感染(直接、薬剤耐性結核に感染する)

 

→ WHO MULTIDRUG-RESISTANT TUBERCULOSIS(MDR-TB)

 

 

日本発の多剤耐性肺結核の薬剤:
日本において約40年ぶりの抗結核薬の新薬「デルティバ®」が、日本初の多剤耐性肺結核の適応で2014年に日本で承認取得しました。この大塚製薬が創製した「デルティバ®」は、多剤耐性結核の治療薬として世界中で注目されています。

 

大塚製薬

 

 

◆HIVエイズとの重複感染

HIV感染は免疫機能を著しく低下させるため、結核発病の最大のリスク要因と言われます。

HIV/エイズと結核は、それぞれの進行を早め、死に至らせる組み合わせで、HIV感染者の死因の約30%は結核にあります。 2020年の結核発病者 約1000万人のうちHIV感染者は約8%。HIV感染者は、HIVに感染していない人々に比べ約20倍も結核を発病する危険性が高くなります。

 

→ WHO TB & HIV 

→ TWO DISEASES, ONE FIGHT The TB-HIV Co-infection



◆糖尿病と結核

 

世界的に見て、結核患者の10%は糖尿病と関連があるとされ、また糖尿病患者は、糖尿病でない人々と比べて2-3倍結核になるリスクがあるといわれています。糖尿病は、世界で約3億5千万人が罹患し、2030年までに50%増加すると予測されていますが、糖尿病と感染症(とくに結核)との連鎖関係は、一般にはあまり認識されていません。 2011年、WHOは、糖尿病と結核の併発の相互の悪影響連鎖を重大な課題と認識し、相互の質の高いケアと予防を妨げている保健システムの障壁を取り除き、対策を強化する為に、国際結核・肺疾患連合(The Union)と、糖尿病と結核のケアとコントロールの為の協働フレームワークを発表しています。

 

◆WHO TB DB
 

 

◆サイパンスタンダード
 


◆協働フレームワーク
 

 

◆「糖尿病と結核」 森 亨
 

 


◆喫煙と結核

 

 

・喫煙は結核の「発病」のリスクを高める。
 喫煙者の発病リスクは非喫煙者の2.33 倍(95%信頼区間1.97 - 2.75).
・喫煙は結核の「感染」のリスクも高める。
 喫煙者の非喫煙者に比して1.73 倍(95%信頼区間1.46 - 2.04)結核に感染する.
・受動喫煙(他人のタバコの煙)が結核の発病のリスクを高める。
 喫煙者の妻は非喫煙者の妻(ともに自身は非喫煙)に比して1.70 倍(95%信頼区間1.04 - 2.80)結核を発病する.

 (ホンコン女性の結核の44%が受動喫煙による)
・結核は結核患者の死亡率を高める。
 喫煙する結核患者はしない患者の1.60 倍(95%信頼区間1.31 – 1.95)死亡する.
・喫煙する結核患者の病状は非喫煙患者よりも重症になりやすい。
 喫煙する結核患者はしない患者よりも症状が強い、粟粒結核・空洞性結核が多い.

 

◆世界のたばこ対策の新しい展開

 

 
 

持続可能な開発目標(SDGs)とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)

 

◆結核におけるSDGs(3.3)目標達成状況

 

SDGsゴール3.3では、「2030年までの結核終息」をターゲットとしています(WHO世界結核終息戦略では2035年までに結核による死亡を2015年と比較し95%を削減)。

 

2015年から2019年の結核罹患減少率(累積)は9%で、これは、WHO 世界結核終息戦略の世界全体の結核罹患率を2015年から2020年までに20%減少という中間目標の達成に及んでいません。また、2015年から2018年の結核死亡者数の減少は14%であり、これも2020年までに35%減少するという中間目標の1/2以下でした。

 

目標達成に向けて2018年に国連総会結核ハイレベル会合(UNHLMTB)が開催されました。政治宣言では①結核対策の強化、②対策資金の確保、③研究開発の強化及び④進捗確認の強化の仕組みが盛り込まれました。対策や資金にかかる主な具体的な目標に対する進捗は、2021年の時点で以下のとおりです。

 

●2022年までに結核患者4000万人を診断・治療するというUNHLMTB目標は達成できないと予測。(高まん延国27か国のデータによる予測で85%以下の達成)

 

●2022年までに115,000人の耐性結核の子供を治療するというUNHLMTB目標の20%程度しか達成できないと予測。

 

●2400万人の接触者に予防的措置を行うというUNHLMTB目標の30%以下しか達成できないと予測。

 

●UNHLMTBで合意された必要な資金は、年間130億米ドルであるのに対して、2021年では53億米ドルが結核対策に支出された。結核対策のための資金は2016年の水準に戻った。

 

 ※ 国連総会結核ハイレベル会合(UNHLMTB)政治宣言での主な誓約

 

参照

・WHO Global TB Report2021

 

 


◆ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と結核対策

 

UHCはSDGs3.8に位置付けられ、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を意味します。結核対策は、保健システム強化の必須要素を多く含み、様々なレベルにおいて健康問題全体に応用できる可能性があります。例えば、結核対策の特徴の1つであるコミュニティへのアプローチ方法、患者発見方法、薬の調達方法、薬を飲むことの管理(DOTS)などは保健システムの改善・強化に活かしていくことができ、UHC達成に貢献します。 結核対策を通じたUHC強化は、新型コロナ等の他の感染症、母子保健、非感染症疾患等への対策も強化します。WHOは結核対策の強化により結核と新型コロナ対応の相乗効果を高めることはUHC達成に必要であるとしています。

 

 

◆国民皆保険に結核対策が果たした役割
 

 

◆結核対策の推進がいかにユニバーサル・ヘルス・カバレッジに貢献しうるか
 

 

 

 

◆結核による経済的損失と結核対策の費用対効果

 

●結核死亡者一人当たりの全所得損失は平均130万ドル。さらに、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの分析によると、多剤耐性結核に起因する死亡だけでも、将来のGDP (PPP) 損失として少なくとも178億米ドルの損失が世界経済にかかるとされています。

 

●コペンハーゲン・コンセンサス・センターによると結核への介入はあらゆる公衆衛生分野の介入の中で最も費用対効果が高い。 結核の予防とケアに1ドルを投資すると43ドルの投資効果があります。

 

 

参照

・A briefing developed by the Global TB Caucus in association with Harvard T.H. Chan School of Public Health and the Institute of Global Health Science from the University of California

・A Report by the Economist Intelligence Unit: It’s time to end drug-resistant TB, 2019

・A Press release developed by Stop TB Partnership(9/28/2021) New data shows COVID-19 combined with funding shortfalls are devastating efforts to end Tuberculosis (TB) by 2030

 

 

 
 
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